最適な基準を持つ
野菜であれ肉であれ多くは包丁で切る
日本料理の業界では「切り付ける」となる 切ることにもプロとしてのルールがある 今回はそのルールを考えてみたい
おおよその感覚で切ればよいと考えがちだが、プロにはプロのルールがある そのルールをわかりやすく解説してみたい
料理人には適当にという言葉は禁句だと思う
塩加減であれ、火の通し加減であれ、切り付けであれ
適当が一番いけない
大切なのは「最適」だ
これを知っているのが料理人だと私は考える
まずは長さの最適「縦にして口に入るか」
切り方には種類がある いくつかあげてみると
- 乱切り
- 千切り
- 銀杏切り
- 花切り
- 拍子切り
- 白髪切り
- 針打ち
- みじん切り
- ねじり切り
- 小口切り
- 輪切り
と、似たような切り方も混ざっているが、ほとんどの切り方は料理人ならば理解していること思う
過去記事 野菜の切り方基本
技術的な問題はある 例えば千切りなら細さ、みじん切りならば細かさなど・・・さらに言えば妻(けん)などは大根と包丁と板前の技術によって出来上がりは大きく異なる 慣れない板前が打てば「短冊切りか?」と先輩の皮肉を聞くこととなる 小口切などでも同じ大きさに切り揃えることはなかなか、難しいものである どちらにしても、修練がなければ達することができない問題だ
技術の差は経験や練習の影響を受けるので、ここでは解説は省く どうか、各自が精進してほしい 今回、ちょっと書きたいと思うことは、長さの問題だ これは、誰でも今日からでもすぐにできる
私は長さを大切にする 何の長さにこだわるのか?
野菜を例にとるとわかりやすい
アスパラガスを切り付けるとする フキでもよい ともかくも細長いものを切るとしよう
何センチに切り付けようか?
経験の浅い職人に切らせると、ほとんど意識することなく ザクザクと切り付ける 適当とは言わないまでも、手早く終わらせる ある意味それもいい 早いのも大切な基本だが、
そんな時に私はその中の切り付けた、一本を手に持ち、こう話す
「切った品物を縦にして口に入るかやってみろ」と
アという口の形をする 要は大きく口を開ける そして一番長い縦の状態ですんなり口に入るか? 横にすればほとんどは、口に収まる しかし、縦にしたときに口に入るかだ
縦にして食べる人はいないと思われるかもしれない そうかも、しれないがここで大切なことは、長さの基準を板前が持つことだ 「最適な長さ」これを知る それが私の中では、縦にして口に入る長さか?ということになる
実際にやるとわかる
2㎝のアスパラ・・・問題なく入る どちらかといえば短い
3㎝のアスパラ・・・すーと入る大きさ
4㎝のアスパラ・・・これがぎり入る
5㎝のアスパラ・・・かなりの大口でやっとこさ
ということで5㎝はダメ 難しいのは4㎝のアスパラだ 私は4㎝でも女性には縦では口に入りにくい大きさだと考える
正解として3から3.5㎝が良いと思う
実際に4㎝以上のアスパラを口にいれて食べてみるとよくわかる たかが1㎝ほど長いのだが、噛むのに難儀する その点、3㎝はとてもすんなりと噛める、口の中でアスパラの移動がスムーズに歯から歯へ移動する
過去記事 アスパラを使った和食
残念だが、経験を積んだ職人でも大きさ(ここでは長さ)に適当な切り付けを,たまに目にする 基準がない証拠だ
「縦にして口に入るか」
簡単な基準が、適当な自己感覚にじゃまされている 俗にいう「こんなもんかな・・・」に
アスパラを例にしたが、こんな時もこの基準が役にたつ
マグロの刺身 すしネタのように長すぎる刺身はルール違反だ しなやかな素材なので、箸の上で反ることを考えても4から5㎝が限界と私は思う 実際にすんなりと口に入る食べやすい大きさであることをやってみてもらいたい
たくあんを切る これも、大きくなりやすい 少しでもたくあんを斜めに切り付けてゆくと、すぐに「縦にして口に入るか」の基準を超えてしまう 3㎝以内にするとほぼ、一口で食べられる大きさとなる
胡瓜の塩漬けも良い例となる 斜めに切り付けると、少しでも気を抜くと「縦にして口に入るか」にそぐわない大きさになってしまう
長さの基準を「縦にして口に入るか」を常に頭において切つけると、異様な長さの切り付けが避けられる 食べる側のお客様が食べやすい大きさを知ることは、それこそ「料理は愛情」の原点と相う
以前、国産の松茸の良いものが入荷した 大きさは大人の手よりははるかに大きいい それを、調理をした
私はあまりにも見事だったので、大振りに切って焼き松茸とした
どうだとばかりにお客様に出すと、食べにくい、切ってほしいと調理場に松茸が戻ってきた 繊維のしっかりしている松茸は確かに食べにく 勝手な私の感覚が大きな間違いを犯してしまった 慌てて私は一口サイズに切り分けた お客様はニコニコしながら酢橘をしぼり完食された
私はこの失敗を常に忘れないようにしている
それこそ、縦にして口に入るくらいの長さが適度な長さなのだ
どんな高級素材でも、旬の素材でも、長さを守ることは美味しさの基本となる
過去記事 松茸料理1
ここ記事 松茸料理2
さて次に「一口半」はご存じか?
私は若い頃から随分と注意をされてきたセリフだ
これは長さの基準ではなくて 量の基準になる大切な言葉だ
料理の量(ボリューム)は人の口に一口で収まる量ではなく、もう半口分プラスがが最適な量であるという日本料理の伝統的な教えだ
1口もだめ2口もだめ 良いのは一口半となる
定食やおかず的な料理の話ではなく、一品料理(特にコース料理)例えば「蕨の篠田巻き」やら「鰆の西京焼き」などでの料理の量の基準となる
時として料理は「多いほうが良い」場合もある ご飯大盛や食べ放題がこれに当てはまる
しかし、何種類かの料理を食べる際はそれと異なる 最後のデザートまでの全体量で満足を得る必要がある 最後のデザートでおなかが一杯となるのが理想ということだ もしかすると最後のデザートで八文目でもよいかもしれない
その時、必要となる基準が一口半となるのだ
不思議な物で、一般的に料理の量は多くなりがちとなる サービス精神も微妙に働く おいしいのだから沢山食べてもらいたいと、板前は考えてしまう それが盛り付けの量に現れてしまう 多めになってしまうのだ
防止策としての基準が先ほどから言っている
「一口半」となる
これに頭において、料理を盛り付けると適度な量にまとめることができるようになる
「一口半」は「少し物足りない位」とも置き換えられてよく言われる どちらも、業界では有名な言葉だ 私も先輩に言われたことがある
「足りない位がちょうどいいんだぞ」
と、物足りない位だからコースや料理全体をを楽しめるということだ
すぐにおなかが一杯では、ゴールのデザートまで食べきれなくなる
一見、けっちっているのかと思われるかもしれないが、ある意味「美味しいものを少しずつ」に通ずる
これは特に女性やお年寄りには、確かにありがたい
そういえば、寿司屋に食べにくる100歳のすし好きのお年寄りの話を先日聞いた そのお年寄りは、お嬢様とご一緒にカウンターで召し上がる どこから見ても裕福なご老人だ 大トロから始まり〆のたまごまで、まるで決まったルールでもあるように順序良くよく食べる 最後に熱い上がりを飲むと「ごちそうさま」と言って車いすで帰ってゆく
このお年寄りは難しいことは言わない 唯一いうのが「ご飯はあるかないかの少量で」
シャリ少 と言うことだ いいや極少となる 握ることが限界の大きさのシャリで板前は握る ほとんど刺身じゃないかと思うほどだ 理由は簡単、このお年寄りはできるだけ多い種類のすしを食べたいのだ 年とともに胃が小さくなっても、料理を楽しみたい だから、すぐにおなかが一杯になっては困るのだ 極少のシャリでなければ、あれこれと食べる楽しみがなくなってしまう
料理人は味をみても実際にコース料理をすべて食べるわけではない なので献立を書く際に私は出来上がった献立に〇△などの記号を付けて、量のバランスをとるようにしている 実際の盛り付けの前に全体の塩梅を理解しておくと量の配分がよりうまくゆく
一口半は優れた量の基準だが、かなり少なめの量でもある その日の年齢層や男女、集まりの趣旨などを考えて「一口半」前後で盛り付けをしてもらいたい
料理を作る人 すべてに言いたい
自分の感覚よりもルールや基準を大切に
盛り付けをしながら、頭の中で呪文のように唱えてほしい
「縦にして口に入るか」「一口半か」
この呪文は、見事に食べ手を満足させる呪文だ
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